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小さい傷で行う心臓手術【MICS】の3つの話


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人工関節手術に関する4つの疑問

一宮西病院 心臓血管外科統括部長 兼 ハートセンターセンター長
菊地 慶太(きくち けいた)
  • 主な資格/心臓血管外科学会 専門医・修練指導者、日本冠動脈外科学会 評議員、日本冠疾患学会 評議員・FJCA(特別正会員)、日本低侵襲心臓手術学会 世話人、ISMICS(国際低侵襲心臓手術学会)ACTIVE MEMBER・REVIEWER
  • 得意分野/低侵襲心臓手術、冠動脈バイパス術、弁膜症手術(特に形成手術)

心臓の手術は怖いもの。皆様はそのように感じていらっしゃるのではないでしょうか。そもそも心臓は胸骨や肋骨で守られています。そのため胸を大きく切って手術をすることになりますので、とても怖く感じることと思います。今回お話をさせていただくMICS(ミックス)を、私は2011年から専門的に行ってまいりました。その経験を踏まえ、従来の心臓手術とMICSとの違いやその利点をお伝えし、皆様には安心して手術を受けて頂けたらと思っております。

1.MICSとはなんでしょうか?

MICSとは低侵襲心臓手術(Minimally Invasive Cardiac Surgery)のことです。低侵襲心臓手術とはなにか、通常の手術との違いをご説明します。そもそも心臓の手術は、胸の真ん中にある胸骨という骨を縦に全部切開して行います。これを胸骨正中切開といいます。この方法は世界中で行われている標準的な方法です。でも体の中心の骨を切ってしまうので、どうしても術後に不自由なことがおこります。そこでこの胸骨を切らない、または全部切らずに少しだけ切って、小さい傷で行う手術方法が世界で広まり始めました。右胸や左胸を小さく切開し、または胸骨を全部切らずに温存し、小さい傷でこれまでと同じ心臓の手術を行うのです。これをMICSといいます。MICS専用の長い手術器械や内視鏡を用いて手術を行います。また不整脈に対する凍結凝固機器、更にはMICSによる冠動脈バイパス術(MICS CABG)専用の特殊な器械も使用して、MICSを行います。MICSとは、特殊な手術器械を使い、小さい傷で従来と同じ心臓手術を行う、新しい手術なのです。

2.なぜMICSが良いのでしょうか?

胸骨正中切開による通常の心臓手術の場合、最後にワイヤーで胸骨をしっかりと固定します。しかし手術後の動作、特に起き上がる時に手をついたり体をひねったりする動作で痛みが強くなり、これまでの動作が行いにくく不自由を感じます。また手術後退院してから3か月間は、自動車の運転を控えて頂いております。MICSでは胸骨自体を切らないか、切っても部分的ですので、術後のこれらの不自由さがとても少なくなります。そのためリハビリの進行も早く、術後1週間で多くの患者様が退院できる状態になります。更に退院から2週間後に外来診察をさせていただき、問題がなければ自動車の運転をしたり、これまでのお仕事を行ってもいいですよ、とお話をしています。このようにMICSの大きな利点は、通常の心臓手術よりも術後の回復が早く、もとの日常生活に早く戻ることができる事と言われています。また糖尿病をお持ちの患者様の場合、傷の治りが悪いことがあります。通常の心臓手術における胸骨正中切開では、胸骨の感染症である胸骨骨髄炎を起こすことがあります。MICSでは基本的に胸骨を切らないので胸骨骨髄炎は起こりません。いわゆる重症感染症のリスクも少なくなるということです。傷も小さく手術で輸血を必要とする可能性が低いので、より安全といえます。

3.MICSの対象になるのは?

基本的には狭心症や心筋梗塞後の患者様、心臓弁膜症の患者様、一部の大動脈瘤などの患者様が適応になります。具体的な手術方法としては、冠動脈バイパス術(MICS CABG)、僧帽弁形成術や僧帽弁置換術、大動脈弁置換術やそれらの複合手術、心房中隔欠損症や心室中隔欠損症などです。特に冠動脈バイパス術では、世界に先駆けて両側の内胸動脈を用いた手術を行いましたし、最高で6か所のバイパスを行うこともできます。また心房細動に対する外科的手術(MAZE手術)も、MICS用に開発された凍結凝固によるアブレーション機器を導入し、MICSにて行っております。手術によっては3D内視鏡を用いてMICSを行いますので、肋骨を開くことも少なく術後の痛みも軽減されます。このように、多くの疾患や患者様に対してMICSを行うことができますが、小さい傷で手術を行うので、心臓機能が良くない方や心臓が大きい(心臓が拡大している)方は、適応ではありません。全身の動脈硬化症が強い方や血管の性状が悪い方も、適応から外れることがあります。更にMICSでは、基本的に手術時は片方の肺だけで人工呼吸を行います。そのため呼吸機能が非常に悪い患者様は、MICSを行うことが難しい場合があります。緊急手術が必要な患者様についても、安全のためMICSは行いません。MICSでは、その適応を決めることがとても大切です。MICSが適応するかどうかは、術前に行うCT検査や心臓超音波検査などの多くの検査結果と、患者様の全身状態などの情報をもとに、十分に評価をして判断します。

最後にメッセージ

MICSは、通常の心臓手術の延長線上にあります。小さい傷で行うので難易度が高い手術といわれています。高い技術により通常の手術がしっかりできるからこそ、次のステップのMICSが可能となります。私たち一宮西病院のハートチームは、心臓外科医だけでなく、循環器内科医や麻酔科医、看護師や臨床工学技士、理学療法士など様々な専門スタッフが密に連携し、皆様を支え、安全な手術を目指しています。手術室では心臓血管外科チームが連携し、集中治療室(ICU)では24時間体制で集中治療に特化した医師・看護師が患者様の術後管理を行い、更にはリハビリスタッフも常駐しリハビリを進めています。また病棟では専門の看護師と理学療法士が皆様の術後ケアを行っています。様々な職種が連携する一宮西病院のハートチームだからこそ、MICSを安全に行うことができるのだと、自負しております。