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なくなった手指の再建を目指す! マイクロサージャリーの3つの意義


マイクロサージャリーの3つの意義

中西 昭登(なかにし あきと)

整形外科部長 兼 四肢外傷センター長 兼 手外科マイクロサージャリーセンター長
  • 主な資格|日本整形外科学会 整形外科専門医、日本手外科学会 手外科専門医、医学博士

整形外科の領域は、肩、腰、膝、関節…など多岐に渡っています。そのひとつに「手外科」という専門領域があるのはご存知でしょうか? 肘から手、指にかけての怪我や疾患を専門に診療する、一宮西病院 四肢外傷センターの中西医師が解説します。

1. 手外科とは? マイクロサージャリーとは?

整形外科の専門領域の1つ「手外科」とは何ですか?

 「手外科」とは、手や肘における疾患・障害を診る専門の診療科です。手外科で扱う症状は多岐に渡り、例えば手の麻痺や痺れなど慢性的な手の病気(手根管症候群、肘部管症候群、ばね指、母指CM関節症など)があります。さらに、切断された指や組織の再接着、手・肘の骨折や脱臼の治療、腱や靭帯断裂の治療、外傷や腫瘍切除などで欠損した組織の修復・再建なども行います。中でも私が専門的に行っているのが、切断された指の再接着です。

指の再接着というと、かなり特殊な分野ですね?

切断された指の再接着の場合、当院では単に指を繋げるだけではなく、「機能と整容の再建」、すなわち“指を動かせるようにすること”と“見た目も再現すること”を目指します。専用の顕微鏡を使って、0.5㎜から3㎜程度の神経や血管を扱う、極めて繊細な手術となります。このような手術を「マイクロサージャリー」といいます。日本手外科学会ホームページによると、手外科の専門医資格を持った医師は愛知県で50名ほどいますが、マイクロサージャリーによる機能回復までを見据えた指・組織の再接着となると、手外科領域でもかなり特殊な専門分野といえるのではないでしょうか。当院では、24時間の受け入れ体制も整っています(隔週の金・土・日除く)。

微細な血管や神経まで扱い、組織・機能までを再建する手術がマイクロサージャリーということですね?

そうです。指ひとつとっても、動脈・静脈・神経・腱・骨など、色々な組織を複合的に一つ一つ丁寧に治していくという手術になります。また手外科といいながらも、マイクロサージャリーの領域では「四肢の組織欠損」が対象になります。ですが重ねて申しているように、形だけ回復すればよいというわけではなく、機能的に回復する必要があると考えています。切断された四肢を繋げたことで、逆に日常生活に支障をきたす場合もあります。患者さんのライフスタイルに合わせ、どこまでの機能回復を目指すのか、これはとても大切なことです。その患者さんの怪我の状態から将来的な機能を見込み、形だけでなくなるべく機能回復を見据えて治療していくこと、そこを重視すれば患者さんのQOL(=生活の質)はより回復・向上していくのではないでしょうか。

2. ここまでできる! マイクロサージャリー

「切断」ではなく、例えば潰れてしまった組織、無くなってしまった組織も再建は可能ですか?

切断した手の指が見つからない場合でも、足の指を用いて手の指を再建することが可能です。「足趾(そくし)移植術」といい、足の指を利用して手の指に移植させるのです。マイクロサージャリーの技術であれば、このように他の部位から採取した組織を、血管・神経を縫合して移植する“複合組織移植”が可能なのです。また神経や血管などを扱うのがマイクロサージャリーなので、感覚も同時に回復させることができます。このように、切断した指がなくなった場合でも、現在は本来の指に近い状態での再建も可能となってきました。

足趾移植術だと、足の親指はなくなってしまいますよね?

足の親指を全て移植するわけではなく、「部分足趾移植術」といって、足の親指の半分を移植に用います。日常生活での支障はかなり小さいといわれています。逆に手の指を欠損したままのほうが、精神的な意味での社会復帰は困難かもしれません。手の指が欠損してしまうと、例えばポケットに手を入れたままの生活になったり、そもそも人前に出ようとしなくなるなど、精神的なインパクトにより社会との距離が生まれてしまいます。ですから手の指を再建することは、そういう患者さんの社会生活にとっても非常に有意義なのです。

3. 組織の機能再建で、精神的回復もめざす!

再建によって得られる患者さんの満足度は高いのでしょうか?

仕事中の怪我や交通事故などで、手や足に大きな外傷を負ったという方は多くいらっしゃると思います。過去には腱や骨を含めた手の組織が全くなくなってしまった患者さんもいらっしゃいましたが、再建手術によって手の機能を回復できた時は非常に喜んでもらえました。先ほどお話させていただいた、手の指を欠損した患者さんに対する足趾移植術でも、機能回復は勿論ですが、やはり体の一部分が欠損したままの精神的衝撃の解消にも寄与できたと思います。

*中西医師はこの研究を英字論文、WSRM2019で発表しています。詳しくは整形外科活動ページをご覧ください。

何年も前に欠損した場合でも、機能再建はできるのでしょうか?

指を欠損したまま時間を経たこのような状態でも、“機能回復を見越した指の再建”を目指すのがマイクロサージャリー。

そういう患者さんもいらっしゃいます。怪我などで組織の一部が欠損した状態で、ある程度時間が経った患者さんでも再建手術は可能です。指が欠損したまま数年過ごしているような方にも、マイクロサージャリーによる組織再建の治療があるということを、ぜひ知ってほしいです。機能だけでなく、その人の精神的なショックも回復させてくれるのが、マイクロサージャリーだと考えています。

最後にメッセージ

数としては多くはありませんが、欠損した手指の再建や外傷によって生じた組織欠損、骨髄炎によって生じた骨欠損など、無くなったものに対する再建手術を可能にするのがマイクロサージャリーです。マイクロサージャリーができる医療機関、更にいえば機能回復までを目指したマイクロサージャリーが提供できる医療機関はまだまだ多いとはいえないかも知れませんが、こういう特殊な技術・手術があるということは、万が一の時のためにぜひ覚えておいてください。
外来では主に、腱鞘炎、手根管症候群、手の麻痺、物がつまめない、使いにくくなったなどの症状、いわゆる「慢性疾患を中心とした手外科」への対応をしています。このような、生活に必要な手の機能の回復を目指すことが、手外科としての役割だと考えています。手の疾患でお困りの方は、外来でぜひご相談ください。

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