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子どもがたばこを飲んでしまったら!?


小さいお子さんがたばこを口にしてしまったことに気づいたら、どうしたらよいのでしょう。
今回はたばこの誤飲について、ご紹介いたします。

たばこ誤飲による中毒

数年前まで、子どもがたばこを誤って飲み込んでしまうと、救急外来では「致死量になっては大変だ!」と胃洗浄という方法が取られることがありました。というのも、子どもにとってのたばこの致死量は1本分という説が信じられていたからです※1
たばこに入っているニコチンによって、中毒を起こすことはよく知られています。これは加熱式たばこであっても、ニコチンの量は紙巻たばこ1本とほぼ同量ですので、同じ話と思ってください※2

たばこの誤飲による影響

しかし世界中の論文を調べてみても、たばこの誤飲によるニコチン中毒で亡くなったという例はありません。ニコチン中毒で調べた結果出てくるのは、“ニコチンパッチを全身に貼って、鼻と口にビニール袋を詰めて自殺したのに死因が窒息であった※3”とか、“自己性愛者の男性が自作のニコチンパッチを多量に貼って、手錠をして電気コードで巻かれた状態で発見されたが、他の薬物中毒が死因であった※4”というものしかありません。そもそもたばこを誤飲してもニコチンの作用で吐いてしまうため、体には十分吸収されないともいわれています。

19世紀の怪しげな薬理学者

たばこに含まれるニコチンの致死量について引用されている最も古い文献は、1856年のカール・フォン・ダミアン・シュロフという薬理学者のニコチン投与実験に基づいています。彼は自分にニコチンを投与してみたら気分が悪くなって失神したそうですが、その記述をドイツの薬理学者ルドルフ・コベルトが1906年に書いた本に引用しました。その中でニコチンの致死量について“致死量の決定は難しいが、シュロフの人体実験によると20~40mgで重症だから、60mgぐらいが致死量だろう※5”と書いたのが最初といわれています。実はそれ以来120年近く、ニコチンの致死量についてはこの本から引用されていました。

動物よりも人間のほうがニコチンに弱い?

これにおかしいと気づいたのは2014年に書かれた論文で、その中では実験動物の致死量が人間よりもはるかに少ないことが指摘されました。その中でニコチンの中毒量は“慎重に見積もっても500~1000mgはある※6”としています。たばこ1本あたりのニコチン量は約15mgです。これは喫煙時の量ではなく、タバコ葉そのものに含まれている量になります。たばこを誤飲した場合、致死量に達するには33~67本は丸呑みしなければなりません。これは現実的に無理な話です。

気をつけるのは?

ニコチンは水に溶けやすく、液体にすると吸収が早くなります。たばこの吸い殻がたくさん入った灰皿や空き缶に水をため、その水を誤って飲むのは危険ですが、そうでない限りたばこの誤飲で慌てることはほとんどありません。体内でニコチンの量が半分になるのは約2時間ですから、2~3時間も経てば、そこから悪くなることもないと考えられますので、家庭では慎重に様子を見ていただくことで十分に対応ができます。
もちろんたばこそのものの置き場所については、家庭内で子どもの手の届かないところに置くなど管理が必要です。それでもお子さんの様子が気になるようでしたら、お近くの救急病院へご相談ください。

出典
※1)Petridou E, Polychronopoulou A, Kouri N, Karpathios T, Trichopoulos D. Childhood poisonings from ingestion of cigarettes. Lancet. 1995 Nov 11;346(8985):1296.
※2)Farsalinos KE, Yannovits N, Sarri T, Voudris V, Poulas K. Nicotine delivery to the aerosol of a heat-not-burn tobacco product: comparison with a tobacco cigarette and e-cigarettes. Nicotine Tob Res. 2017 Jun 16.
※3)Kemp PM, Sneed GS, George CE, Distefano RF. Postmortem distribution of nicotine and cotinine from a case involving the simultaneous administration of multiple nicotine transdermal systems. J Anal Toxicol. 1997 Jul-Aug;21(4):310-3.
※4)Lardi C, Vogt S, Pollak S, Thierauf A. Complex suicide with homemade nicotine patches. Forensic Sci Int. 2014 Mar;236:e14-8.
※5)Kobert R. Lehrbuch der Intoxikationen II. Band Spezieller Teil. Stuttgart: Verlag von Ferdinand Enke; 1906. pp. 1064‒1065.
※6)Mayer B. How much nicotine kills a human? Tracing back the generally accepted lethal dose to dubious self-experiments in the nineteenth century. Arch Toxicol. 2014 Jan;88(1):5-7.

コラム執筆

一宮西病院 総合救急部 救急科
部長
安藤 裕貴

2008年、富山大学卒業。富山大学附属病院・富山県厚生農業協同組合連合会高岡病院で初期研修後、福井大学医学部附属病院にて後期研修。福井市立敦賀病院、名古屋掖済会病院を経て、2018年より一宮西病院。

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※本ページに掲載されている情報は、2020年8月時点のものです。
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