グローバルナビゲーションへ

本文へ

ローカルナビゲーションへ

フッターへ


乳房再建


失った乳房をあたらしく作り直す乳房再建は、乳がんの治療ととても密接な関係にあります。
術後の生活を自分らしく過ごす、乳房再建について解説します。

乳房再建とは

乳房再建(Breast Reconstruction)とは、乳がんの手術などで失った乳房をあたらしく作り直す手術のことをいいます。
治療のために胸のふくらみを切除することは、乳房の形やサイズが変わる身体的な喪失だけでなく、自身のボディイメージも変容し精神的にも大きな変化がともないます。乳房再建をおこなうことによってこういった乳房の喪失感を軽減し、下着着用時の補正パッドが不要になるなど、日常生活における不都合の減少が期待できます。

保険適用となる場合

乳房再建において、保険適用となるのは乳房を全摘した場合に限ります
ただし、部分切除の場合も、自家組織による再建をおこなうこと自体は可能です。
  • 乳房全切除術 / 乳頭温存乳房全切除術
  • 遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)に対するリスク低減乳房切除術 ※全摘の場合
  • 良性腫瘍に対する乳房切除術 ※全摘の場合

乳房全切除術

乳頭温存乳房全切除術

乳房再建のタイミング

乳房再建をおこなうタイミングには、乳房切除と同時に再建をおこなう一次再建と、切除後に乳がんの治療が落ちついてからおこなう二次再建があります。
一次再建 二次再建
メリット
  • 手術の回数が少なく、身体的・経済的負担が少ない
  • 乳房を失う喪失感が少ない
  • 乳がんの治療に専念できる
  • 仕上がりの形や術式の希望をじっくり検討できる
  • 乳がんの手術とは別の医療機関で再建をおこなうことができる(術式の選択の幅が広がる)
デメリット
  • 乳がんの手術のことだけでなく、再建についても考えなくてはならず、ゆっくり考える余裕がない
  • 医療機関によってはできる術式が限られる
  • 手術回数が多くなり、身体的・経済的負担が大きい
  • 乳房を失った後の喪失感が大きい

乳房再建の術式

乳房再建の術式には、患者さま自身のお腹や背中の組織を使用する自家組織による再建と、インプラントによる再建などがあります。

自家組織による再建は、手術の負担が比較的大きいことがデメリットですが、仕上がりは下垂などのより自然な形になり、左右差もインプラントに比べて少なくなります。また、術後のフォローは短く済みます。

インプラントによる再建は、手術の負担が比較的軽いため、社会復帰は早くできます。ただし、下垂などの形を作るのが難しいために左右差が出やすく、年齢を経るごとにさらに左右差が出てきます。また、インプラントが入っている間は通院が必要になります。
自家組織による再建 インプラントによる再建 エキスパンダー留置 脂肪移植による再建
手術時間 4~6時間程度
※当院でおこなう術式の場合
1~2時間程度 1~2時間程度 1.5~2時間
入院期間 2~3週間 4日~1週間 1~2週間 入院は不要なことが多い
傷あと 乳房と組織を取った部分に残る 乳房切除の傷あとのみ 乳房切除の傷あとのみ 乳房切除の傷あと+脂肪採取時の傷あと(5mm~1cm程度)
身体への負担
  • 比較的大きく、社会復帰まで時間がかかる(腹直筋皮弁の場合、普通の姿勢で動くことが可能になるまで1ヶ月半程度かかることも)
  • 術後2年間ほどは外来でフォロー
  • 比較的小さく、社会復帰が早くできる(退院して1週間程度で仕事復帰できることが多い)
  • 入っている間は1年ごとの診察、2年ごとの画像検査が必要となる
  • 比較的小さく、社会復帰が早くできる
  • 注入のために数週間に1回の外来通院が必要となる
  • 脂肪採取した部位の痛みや皮下血種が引くのに1ヶ月ほどかかる
  • 複数回の治療を要する
仕上がり
  • 下垂など自然な形
  • 柔らかい、体温を感じる
  • 姿勢により形が自然に変化する
  • 下垂などの形を作るのは難しい
  • 張りがあり対側との差がでやすい
  • 体温を感じにくい
  • 姿勢による形の変化が少ない
柔らかく自然な形を作りやすい
起こりうる合併症
  • 感染
  • 皮弁壊死など(追加の処置や手術が必要)
  • 感染(場合によっては抜去が必要)
  • 被膜拘縮
  • 破損(抜去・入れ替えが必要)
  • 感染(場合によっては抜去が必要)
  • 感染
  • 出血
  • 脂肪壊死
  • 石灰化
費用 保険適応 保険適応(ステージ2以下) 保険適応(ステージ2以下) 自費治療
放射線治療後の適応 可能 症例による 症例による 症例による

自家組織による乳房再建

自家組織による再建は、主にお腹の組織を移植する方法背中やわきの下の組織を移植する方法のいずれかを選択します(一部の医療機関では、でん部や大腿部などによる再建方法もおこなっています)。
手術時間は形成外科の担当部分だけで4~10時間(※術式による)、術後の入院期間は2~3週間となることが多いです。

お腹の組織を移植する方法

お腹の組織を移植する方法には、腹直筋皮弁法穿通枝皮弁法の2つがあります。いずれも術後は安静度の制限があり、腹部の痛みやひきつれ感などのため、元通り動けるようになるまでには1ヶ月~1ヶ月半ほどかかることが多いです。
【適応】

① 広く大きな組織欠損がある場合

② もう一方の乳房が大きく、大きな乳房をつくる必要がある場合

③ 整容的な配慮をする場合(下腹部の脂肪が多く切除を希望した場合)


【適応に気をつけるべきこと】

① 将来妊娠出産の予定のある場合
→基本は適応外

② 腹部に手術の傷あとがある場合
→適応外とはならないが、場合によっては使用できなかったりより高度な方法での再建が必要となる

腹直筋皮弁法

  • お腹の皮膚・脂肪・筋肉の一部を、上方の血管がつながった状態で皮下を通し胸に移植する方法
  • 手術時間は穿通枝皮弁法を比べて短く、多くの施設で受けられる
  • 合併症としては、下腹部が若干膨らんだり、まれにヘルニア(脱腸)になることがあるため、術後しばらくは下腹部を支持するために腹帯やガードルなどの装着が必要
穿通枝皮弁法

  • お腹の皮膚・脂肪だけを血管がついた状態で取り出し、胸の血管と吻合し移植する方法
  • 高度な技術を要し、手術時間は6~10時間程度と長く、限られた施設でしか受けられない
    ※当院では実施していません
  • 腹筋をほとんど切り取らないため、腹筋が弱くなることはない
  • 過去にお腹の手術を受けた人でもおこなうことができる

背中の組織を移植する方法

広背筋皮弁法

【適応】

① 広く大きな組織欠損がある場合

② もう一方の乳房が大きく、大きな乳房をつくる必要がある場合

③ 整容的な配慮をする場合(下腹部の脂肪が多く切除を希望した場合)

  • 合併症としては、背部採取部に浸出液(汁)が溜まること
  • ボリュームを出すことが難しいため、インプラントの併用や脂肪注入の併用(※自費)をおこなうこともある
  • 手術時間は4~5時間で、比較的多くの施設で受けられる
  • 入院期間は2週間程度で、術後の安静度の制限などは少なく、元通り動けるようになるまでは腹部の皮弁に比べると早い

インプラントによる乳房再建

インプラントによる再建は、まず組織拡張器(エキスパンダー)を胸の筋肉の下に入れて、皮膚を拡張してからインプラントと入れ替えることが多い術式です(一次二期再建・二次二期再建)。ただし、乳房のボリュームが小さい方の場合、乳房切除と同時におこなう場合もあります(一次一期再建)。

組織拡張器は、胸の筋肉の下に入れてからおよそ4~6ヶ月間かけて、1~3週間に1回の割合で生理食塩水を注入して皮膚を拡張していきます。十分な大きさまで拡張した後は、半年ほど皮膚をなじませ、9ヶ月~1年ほどでインプラントとの入れ替え手術をおこなうことが多いです。
インプラントによる再建では、胸の手術のみで他の部位に傷がつかない手術時間が短い、胸の皮膚を拡張するので皮膚性状の違いがないなどの優れた利点があります。
組織拡張器と入れ替える人工乳房はシリコンインプラントになっており、ときに破損や変形の可能性があります。そのため、1年に1回の通院、2年に1回の画像検査をおこない、破損や合併症がないかどうかを外来診療でフォローアップしていきます。また、破損や変形をきたした場合は、再度インプラントの入れ替えをおこなうことになります。

シリコンインプラントによる合併症

2019年、保険医療での使用が承認されていたシリコンインプラントによる、乳房インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫(BIA-ALCL)の発症が日本ではじめて報告されました(以降、このシリコンインプラントは使用されておりません)※1
BIA-ALCLの発症頻度は約2,200~3,300人に1人(0.030~0.045%)と低く、腫れやしこりなどの症状がなく、担当医の評価でも異常がみられない場合には、予防的にこのインプラントを摘出する必要はありません※2
また、現在承認されているインプラントは、以前保険承認されていたものよりも発症頻度が低いとされています。

放射線治療と乳房再建の関係

放射線療法は、自家組織による乳房再建については脂肪壊死の増加、整容性の低下を引き起こす可能性はあっても、大きな合併症の明らかな増加は認められていません※3
その一方で人工物による乳房再建については、合併症や再建失敗、被膜拘縮(インプラントのまわりにできた膜が過剰に硬くなる状態)などの有害な事象を増加させ、整容性の低下を引き起こすことが示されています※3

そのため、人工物による再建を予定していて、センチネルリンパ節生検で陽性となった場合は、いったん再建予定を中止し、二次再建に切り替えることが多くあります。

手術をおこなわない方法

エピテーゼの例

手術をおこなわない再建として、エピテーゼ(人工ボディ)というシリコン製の装具を取り付けるといった方法があります。心理的なコンプレックスを抱いている患者さまの精神的負担を緩和する目的などで使用されており、保険適応はありませんが手術などでかかる費用と大きな差がなく購入できるものもあります。
再建に悩まれている場合や、普段気にならないが温泉に行ったときなどの限定的な場面で気になることがある方は、一度検討いただくと良いでしょう。
出典
※1)日本形成外科学会ホームページ お知らせ「乳房インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫(BIA-ALCL)の要点
※2)日本形成外科学会ホームページ「人工物による乳房再建
※3)乳癌診療ガイドライン2022年版「BQ8 乳房全切除術後の再建乳房に対する放射線療法は勧められるか?

コラム監修

一宮西病院 形成外科
部長
野田 慧

横須賀共済病院で初期研修。藤田保健衛生大学、小嶋病院、豊川市民病院、藤田医科大学、豊川市民病院、市立伊勢総合病院を経て、2023年より一宮西病院。

⇒プロフィールの詳細はこちら

※本ページに掲載されている情報は、2024年3月時点のものです。