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眠れない…いまこそ知っておくべき!睡眠障害の5つのこと


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院長 / 滋賀医科大学名誉教授
山田 尚登
( やまだ なおと )
日本睡眠学会で理事を務める
睡眠のスペシャリスト

主な資格/日本精神神経学会 専門医・指導医、日本睡眠学会 認定医、精神保健指定医、精神保健判定医

日本人成人のおよそ20%が慢性的な不眠症を抱えているといわれています。日中に強い眠気を感じたり、元気が出ない…なんてことはありませんか?不眠症の症状や治療法、自宅でできる予防法について、院長・山田医師が解説します。

1. 「睡眠」の役割は何ですか?

睡眠時間と国語の成績

睡眠は身体を回復させるだけでなく、実はたくさんの役割があります。睡眠時の脳波には覚醒、レム睡眠(浅い眠り)、ノンレ
ム睡眠(深い眠り)があり、レム睡眠とノンレム睡眠は約90分周期で繰り返されます。このうち、1回目のノンレム睡眠の時に成長ホルモンが分泌され、骨・筋肉を発達させたり、体内の様々な化学反応を促します。例えば、肌や髪が綺麗になったり、ダイエットにも良い効果があるといわれています。またレム睡眠は学習に良い効果があり、レム睡眠時に記憶の整理・記憶の固定が行われるといわれています。国内外の中学・高校の調査では、睡眠時間が長いほど成績が良いということが分かっています。もし色々なことを覚えるのであれば、夜寝る前に覚えると良い
でしょう。しかし、睡眠習慣がいつもとずれると眠りが浅くなるので、効果が薄れます。十分に睡眠の効果を出したいのであれば、睡眠時間を一定にするのが良いでしょう。このように睡眠には、単に寝て身体を休めるだけではなく、怪我の修復・成長、ストレス発散、記憶の固定などの様々な役割があるので、睡眠不足になると様々な不調が現れるのです。

2. 不眠症では、どんな症状が現れるのですか?

不眠症と診断されるには、寝ている途中で目が覚めてしまう、寝ても寝た感じがしないという「夜に十分眠れないこと」、もうひとつは昼間に眠くてたまらない、頭が痛くて元気がないなどの「身体症状が現れること」の夜と昼の二つの症状が必要です。睡眠障害が現れると、情動的反応・認知的反応・身体的反応の三つの反応が現れます。情動的反応はイライラして気分が変化しやすくなり、怒りっぽくなります。認知的反応は注意散漫になり、記憶などの認知機能が落ちます。寝てないと頭が働かないのはこれが原因です。身体的反応は痛みを感じやすくなり、マイクロスリープ(一瞬寝落ちしてしまうこと)があります。更に感染症にかかりやすくなり、糖尿病や心臓病など多くの疾患の進行、心筋梗塞、ある種のがんの発症率上昇に繋がります。他にも精神疾患(うつ病・不安障害など)が悪化するなど、様々な悪影響が現れます。

3. 受診を考えるべき目安はありますか?

「眠れない」「寝た気がしない」などで不快な思いをしている時、そして「昼間に眠い」「気分がすっきりしない」あるいは「以前のように活動的になれず頭が働かない」と感じた時、この二つにあてはまれば、受診をおすすめします。考え事や不安がある時に眠れないことは誰にでもあると思います。ある日突然眠れなくなり、それが一度なら良いのですが、慢性の不眠症では次の日もその次の日も眠れなくなります。今夜眠れるかどうかを心配するあまり更に眠れなくなることが多く、寝なきゃ寝なきゃと思うことで交感神経が高まり更に眠れなくなります。このように何日も眠れない日が続く方も、受診の対象です。「眠れないこと」そのものが心配な方は、お気軽にお近くの専門医に相談されるのが良いでしょう。

4. どんな治療を受けることができますか?

 基本的には薬物療法と非薬物療法の二つに分けられます。非薬物療法はいくつかあります。一つは心理教育です。ヒト
では体温が低下するときに寝つきは良くなります。従って、皆さんがお風呂で一度体温を上げて、体温が下がってくる頃、風呂から上がった一時間後に寝るとよく眠れます。これは一例ですが、このようにしっかり睡眠について知ってもらうことが、心理教育です。二つ目は認知行動療法です。長年薬がやめられない…と紹介されて来院された方も、この治療法で数ヵ月後には薬をやめられたという事例も多くあります。認知行動療法には、「睡眠制限法」と「刺激制御法」という大きな二つの柱があります。睡眠制限法は、“短い時間しか寝てはいけない”と決め、その時間眠れたら順に時間を増やしていく、という方法です。身体が必要とする分だけ眠ることで、熟睡感が得られます。刺激制御法とは、睡眠を妨げる条件反射の刺激を可能な限り取り除き、眠くないときは離床するように指導するものです。他にも当院では「自律訓練法」という心身の状態を自分自身でうまく調整できるようにする治療法も取り入れています。

5. 家庭でもできる不眠症の予防策はありますか?

休みの日でも、平日と同じ時間に起きることです。休みの日に“今日はたくさん寝たい”という時は寝る時間を早くして、起きる時間は一定で変えないでください。私たちには身体の中の時計(視交叉上核/しこうさじょうかく)があります。動物を使った実験では、視交叉上核が壊れると24時間のサイクルが乱れてしまいます。人の視交叉上核も同じです。人の視交叉上核のリズムは、1サイクルおよそ25時間なので、放っておくと1日1時間ほど遅れていきます。引きこもりで外に出ない人は、外の光などの情報が入ってこないのでリズムがずれやすいです。このリズムは光を浴びたり学校や会社に行くなど時間の手がかりを得ることによって正しくリセットされます。朝や昼に光を浴びることで、この1時間のずれが調整されるのです。夏休みのラジオ体操は、朝日を浴びて体の中の時計をリセットさせることができるため、お子さんにはとても重要なことだとわかりますよね。一方夕方に光を浴びると、後ろに1時間遅れてしまうので逆効果になります。朝起きたらカーテンを開けて朝日を浴びたり、外でジョギングをするなど、光を浴びたり運動するなどの習慣で健康な身体のリズムが作られます。しかし、夜勤ばかりで寝る時間がお昼になってしまう…という方もいらっしゃると思います。そういう方は、寝る時間を固定すれば良いと思います。どんな環境であっても、まず一定のサイクルで生活することが、不眠症にならないための予防策だといえます。