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気分がのらない…大人のメンタルヘルス うつ病に関する5つのこと


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副院長
吉江 康二
( よしえ こうじ )
主な資格/日本精神神経学会 専門医・指導医、日本精神科病院協会 認定指導医、精神保健指定医

うつ病にかかる人は、平成5年から26年にかけて約5倍と急激に増えています。うつ病とはどのようなものなのか?病院にかかるべき症状は?副院長・吉江医師が解説します。

1.「うつ病」とはそもそもどういうものですか?

身体や気分、意欲などに障害が現れる“心と体の病”を「うつ病」といいます。身体に症状が現れるケースが多く、内科では特に問題なしと診断され、精神科へ行くとうつ病と診断されることもあります。また、体の症状のみが現れる場合もあります。気分の落ち込みが少ないので精神的な自覚症状は乏しいですが、これもうつ病の一種です。うつ病はどこかに病気やケガをしたわけではないので、一見するとなまけ、やる気がないだけだと思われがちですが、れっきとした精神的な「病気」です。原因はまだ明確になっていない部分が多いですが、最近では脳内の神経伝達物質の減少によるといわれています。
うつ病は真面目、几帳面、道徳的、勤勉、良心的で責任感が強い、他者との争いを嫌う…という性格の方がなりやすいと言われています。仕事のストレスや親しい人との別れなどつらく悲しい出来事が原因となる場合、逆に昇進や出産、こどもの独立などどちらかというと明るい人生の転機が本人にとって負担となる場合などうつ病のきっかけは様々です。
男女差で見ると女性の方が約2倍かかりやすく、20代に発症することが多いです。生涯有病率は6.7%で、約15人に1人が発症しています。一度発症すると約60~80%が再発し、再発した人は一生の間に平均4回再発すると言われていますが、しっかりと治療すれば改善して安定した生活を送ることができます。「もしかして・・・」と思ったら早めに病院で相談することが大切です。

2.「うつ病」にはどんな症状がありますか?

何もないのに悲しくなる、絶望感、気分の落ち込みなどの「抑うつ気分」が一日中続きます。午前が特に悪く、午後から夕
方にかけて症状が軽減する傾向があります。また意欲が乏しくなって活動力が低下し、興味や喜びが喪失します。思考力・集中力は減退し、自身で決断する能力が著しく低下しますので、突然「会社を辞める」と訴えるなど正しい判断が難しくなります。
身体症状としては頭痛、肩こり、睡眠障害、疲労感を強く感じ、多くの場合は食欲低下により体重が減少します。症状がひどくなると不安感・焦燥感でじっとしていられなくなります。
また「妄想」がみられることもあります。「自分が何か重大な病気にかかっているのではないか」「自分には生活していくだけのお金がない」「自分のせいで周りの人を不幸にしている」…このような妄想は重症うつ病であることが多いです。そして「死んだ方が楽になれる」と自殺願望が現れ、死に方を具体的に考えるようになるのが、うつ病で最も危険な状態です。

3. 受診を考えるべきタイミングはありますか?

会社や学校から帰宅した時にいつも以上に疲れている日が続く、表情が暗くなった。口数が少ない。食欲が落ちている。睡眠が充分に取れず寝起きが悪くグズグズしている。好きなテレビを観ない。趣味をしない。…このような初期症状を本人や家族が自覚した時は、速やかに受診して下さい。治療開始が早ければ早いほど治りは良いです。

4. どんな治療を受けることができますか?

まず、休息を取ることが最も大切です。治療は主に「お薬での治療」「精神療法」「入院療法」があります。

【お薬での治療】
脳内の神経伝達物質の量を増やすことで症状を改善します。現在は副作用の少ない薬が主流ですが、人によっては吐き気や下痢が生じることもあります。抗うつ薬は効き始めるまでに1~2週間かかると言われていますので、効果が出ないからといって服薬を中断しないことが大事です。他にも抗不安薬、睡眠薬、気分安定薬等が症状にあわせて補助的に使用されることもあります。

【精神療法】
公認心理師による精神療法はいくつかあります。一つ目は、ものごとの捉え方やいつもの行動パターンをふりかえり、少しずつ変えていくことで悪循環に陥らない方法を考える「認知行動療法」。二つ目は、コミュニケーションのあり方を工夫し家族やまわりの友人、同僚と良好な関係を築けるようにしていく「対人関係療法」。最後に不安、悩み、苦しさ等を心理師に伝え、丁寧に聞いてもらうことで支えてもらい、不安感などを軽減していく「支持的精神療法」。やはり“人に話すこと”で安心感を覚えますので、このような治療が大切になってきます。

【入院療法】
休息が一番大切と言いましたが、うつ病になる方は責任感が強く真面目な方が多いので、学校や仕事をなかなか休んでくれません。そこで利用されるのが入院療法です。自殺の可能性が高い人、職場・学校が気になって無理してでも行こうとする人などが対象です。治療内容は休息、薬物療法、心理教育等です。心理教育とは、医師や精神科ソーシャルワーカー、看護師、薬剤師、公認心理師、作業療法士などによる病気の正しい理解や対処法、服用する薬についての効果、副作用について、社会資源(生活の上でその人を支える全てのもの)についての説明等を行うものでご家族も一緒に受けていただきます。他にも修正型電気けいれん療法、光療法などの器械を使った治療もあります(※当院では導入しておりません)。

このように多くの治療法がある中で、どの治療法を選択するかを調べるために、検査を行う場合もあります。アンケート形式で質問に答えてうつ病の程度を調べる検査や、脳の血流量を測定し、客観的に目に見える形でうつ病かどうかを評価する光トポグラフィー検査などがあります。うつ病で仕事を休職している患者さんが回復状態にある時の治療の一つとして、職場復帰に向けたリハビリテーションを専門機関で行う「リワークプログラム」というものもよく利用されています。職場に近い環境で、緊張感を持ちながらグループワークを行うことで、ストレス耐性やマネジメント能力を身につけ、社会復帰を目指します。このプログラムの利用者がその後就労した場合の1年後の就労継続率は85%、利用しなかった場合は60%という報告があります。当院では復職・就労支援のための自立支援センター「ほっぷ」を開設しています。

5. 家庭でもできる予防策はありますか?

日頃から家族のコミュニケーションを大切にしてください。特にハラスメント、介護、近親者との死別、昇進、退職、引っ越し、結婚、妊娠・出産、病気、事故…など、本人にとって重大な出来事があった場合には、悩みや苦しみを一人で抱え込まないようにし、
家族に相談できる環境を作って下さい。家族は本人を観察し、もしうつ病の初期症状が認められた場合は速やかに精神科または心療内科の受診をお勧めします。また、うつ病になってしまったとしても現代では経済的(通院費の助成や、生活のための扶助をうけることができる)、社会的支援(手帳の取得、生活や訓練のための障害福祉サービスの利用)の制度が多くあります。利用には条件がありますので、かかりつけの病院の精神科ソーシャルワーカーにご相談ください。その他にも精神保健福祉センター、保健センター、保健所などの公的機関でも相談可能です。うつ病になってしまったからと焦らず、色々なところを頼り、少しでも安心して治療していただければと思います。