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これって飲みすぎ?知っておきたいお酒と健康の6つのこと


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精神心療科
小川 陽之
( おがわ はるゆき )
主な資格/精神保健指定医
アルコール依存症研修
(治療指導者養成研修修了)

所属学会/日本精神神経学会・日本内科学会

一般的にアルコール依存症は「否認の病気」と呼ばれていて、自分が依存症であると自覚し認めることが難しいとされています。しかし、治療を行っていくには本人の受診が不可欠です。自分は、家族は、周りの人はどうしたらいいのでしょうか?アルコールとの付き合い方やアルコール依存症の治療法について、小川医師が解説します。

1.お酒が体に与える作用・影響にはどんなものがありますか?

良い作用は『リラックス効果』です。ほろ酔いになる経験は皆さんあると思いますが、お酒には中枢神経の抑制作用があるため、緊張がほぐれて気分が楽になります。例えば、寝酒をする人はリラックス効果で眠れている部分もあると思います。ただ、寝酒は睡眠の質を下げてしまうのでお勧めしておりません。
悪い影響は『体全体への影響』です。一般でもおなじみなのは肝臓への悪影響です。アルコールによる肝障害が起こり、肝硬変、肝臓がんに進行することはよく知られていますね。さらに、アルコールに細胞毒性があるので、お酒の通り道である食道~大腸の間にある内臓のがん発生率が上がる、乳がんが増えるという報告もみられます。また、痛風や糖尿病、中性脂肪の上昇など代謝系の異常もあげられます。最近は「プリン体カットビール」も出てきていますが、アルコール自体に尿酸値を上げる効果があるので油断してはいけません。お酒は『百薬の長とはいえど、よろづの病は酒よりこそ起これ』といいますから。

2.「飲みすぎは良くない」と聞きますが、どんなことが起こるのですか?

アルコールを飲みすぎると酩酊状態、つまり自分に歯止めが利かなくなり、つい言い過ぎたり、さらに酷くなると脱力して寝てしまう方もいらっしゃいます。

適量はどのくらい?
個人差が相当ありますが、厚生労働省によると、男性は一日平均純アルコールで約20g程度(ビール500㎖)、女性はその半分程度とされています。しかし、この量を守ればアルコールの害は無いというものではありません。肝臓が1時間で分解できるアルコール量の上限は決まっていて、日本人の多くは10g以下や0.1×体重(kg)と言われています。500㎖のビールを飲んだら、分解の早い人でも最低2時間はかかるということです。それを超える分を飲めば、しばらくの間は体にアルコールが残っているという状態になります。

3. 「お酒好き」と「アルコール依存」はどう違うのですか?

 まず、アルコール依存症の症状として『コントロール障害』と『離脱』があります。『コントロール障害』は飲酒量や頻度、飲み終わるタイミングなどを自分の意思でコントロールできない状態です。『離脱』はお酒を飲まないと手が震える、頭痛がする、吐き気がする、幻覚など、かつて禁断症状と呼ばれていたものです。
しかし、「お酒好き」と「アルコール依存」に明確な線引きの基準はありません。1つの参考として、WHO(世界保健機構)が開発した飲酒習
慣スクリーニングテスト(AUDIT)があります。私が診察で基準にしているのは、『その飲酒行動によって、自分や周りがどれだけ迷惑を受け
ているか』です。また、『お酒を飲んでいなかったら、できたことがどれだけあっただろう?』と考えてもらえたらいいと思います。お酒を飲んでいなかったら読書ができた、友達に会えた、家事ができた、などです。
依存症の人で多いのは、飲酒した際に理性的な判断ができなくなり迷惑行為をしてしまい、さらに自分がした事を忘れてしまうというものもあります。一般的に社会生活を送っていくうえで、記憶をなくして普段はしない行動をしてしまうのは問題視すべきラインです。若い頃にやってしまった、まれにそういう事態になってしまった、というだけであれば依存症であるとは言えませんが、恒常的にその状態であると依存の傾向が強いと判断します。

飲酒習慣スクリーニングテスト(AUDIT)

WHO(世界保健機構)が開発した、飲酒の習慣について調べるアンケートです。今の飲酒が適切なものなのか、日常生活や健康に悪い影響がでるほど問題のあるものなのか、調べることができます。
※あくまでもスクリーニングが目的ですので、これで診断がつくものではありません。
正確な診断は専門医の診察を受けることが望まれます。

4. アルコール依存は受診が必要ですか?また受診すべきタイミングを教えてください。

怒りっぽくなったり、鬱っぽくなったり、お酒を飲んでいない時にも性格の変化がある、自分で飲酒量をコントロールできないなどの症状がみられる場合は相談に来ていただいた方が良いと思います。
また、孤立することによって飲酒量が増えアルコール依存になる方は多いです。仕事を辞めたタイミングや、配偶者の方が施設や病院に入られたなど、人生のぽっかり空いた穴をお酒で埋めてしまうんです。しかし、一般的にアルコール依存症は自分で依存症を自覚して認めることが困難な病気だといわれています。日本では100万人以上がアルコール依存症に該当しますが、実際に治療を受けている人は5万人しかいないという統計データがあります。周りの方が気づかないと受診に至らないケースも多く、なるべく孤立しないように周りが気にかけてあげるというのが受診にも繋がると思います。
もし本人が受診したがらない場合はご家族だけで相談に来てもらってもかまいません。治療に繋げるための相談にも応じていますし、状況を先に聞いておくことで治療をスムーズに行うことができます。

5. 精神科で受けることができる治療はなんですか?

治療の三本柱と言われているのが「専門外来への通院」「薬物療法」「断酒を支援する団体(以下自助グループ)への参加」です。

【専門外来への通院】
お酒を減らそう、やめようと決意しても必ず、飲みたい!という欲求が出てしまいます。当院ではアルコールリハビリテーションプログラムとして、アルコール依存症に対して正しい知識を身につけてもらい、飲酒にまつわる生活を振り返ってお酒に頼らない生活を送るにはどうすればいいか、などを医師や公認心理師などの専門職が一緒に考えていきます。

【薬物療法】
薬物療法では、体内のアルコール分解を途中で止めてしまい、お酒が分解できない=お酒が飲めない体質に強制的にしてしまう『お酒を飲めなくしてしまう薬』と、お酒を飲んだ時の気持ちいいという気持ちを抑え、自然に飲酒をストップできるようにする『飲む量を減らす薬』があります。どちらの薬にもメリット・デメリットがありますので、本人の目標や断酒状況によって使い分けていきます。

【自助グループへの参加】
これは、同じ疾患を持つ人たちが苦しみを分かち合うことで治療に繋げていくものです。寂しさを埋めるためにお酒に溺れる方は多いので、人との繋がりを回復させることでストレスの軽減効果が期待できます。依存(Addiction(アディクション))の対義語は、繋がり(connection(コネクション))と言われているくらいですから、孤立させないことは実は治療においてとても大切です。

なお、確実に断酒したい方、外来では飲酒のコントロールが十分ではない方に関しては入院をご案内することもあります。

6. アルコール依存症と診断されたら…

アルコール依存症になる方は、実は単純にお酒が好きというよりは、お酒で何かを埋めている・お酒の「リラックス効果」を使って解消しなければならない何かがあることが多いです。なので、お酒を飲むに至ったおおもとの理由を軽減していく事が、治療でも一番大事になります。自分は何でお酒を飲んでいるんだろう?なにを埋めているんだろう?ということを考えて欲しいです。その原因をお酒以外の手段で解消できるようになれば依存症治療としては成功に近づきます。
ご家族の方におかれましても、お酒を飲む理由を知り、理解してあげることが大切です。「飲むな!」と言っても自分でコントロールできないのが依存症です。過剰なストレスを与えず、怒るよりも「悲しい」「心配している」と伝えるのが適切だと思います。