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前立腺がん


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前立腺がんは、日本の男性において罹患数の多いがんのひとつです。
加齢とともに増える前立腺がんについて、症状から治療法までわかりやすく解説します。

前立腺がんとは

部位別がん罹患数 男性(2021年)
出典: 厚生労働省「全国がん登録 罹患数・率 報告 2021
前立腺がんは、日本での罹患数増加が最も著しいがんです。男性のおよそ10人に1人が生涯罹患するといわれており、男性がんの中でも罹患率が高い病気のひとつになっています。2021年に新たに前立腺がんと診断された患者数は95,584人※1で、男性の部位別がん罹患数では第1位。さらに、2023年の死亡者数は13,429人※2と報告されています。また、高齢になるほど罹患率が増加し、進行が遅くなる傾向があるという特徴もあります。
前立腺がんの転移部位
出典: 前立腺検診協議会・財団法人前立腺研究財団「前立腺検診の手引き」(金原出版) 54-70, 1993
前立腺がんの転移先はおよそ85%が骨※3、38%がリンパ節※3で、比率的には低いものの肺や肝臓、脳などに遠隔転移することもあります。前立腺がんの細胞は血液の流れにのって運ばれ、骨で栄養を吸収しながら悪性のがんへと成長し、肺や肝臓に転移していきます。したがって、骨転移への対処が鍵を握る病気なのです。

前立腺とは

前立腺拡大図

前立腺は男性にある生殖器のひとつで、膀胱の下にクルミほどの大きさで位置しており、尿道が中央を貫いています。精子にエネルギーや栄養を与える前立腺液を分泌し、受精しやすくする働きがあります。こういった前立腺の活動には男性ホルモンが深く影響しており、前立腺がんもその影響を受けて成長する性質があります。大きくわけて、中心領域、移行領域、辺縁領域という3つの部位に分類され、前立腺がんができるのは主に辺縁領域と呼ばれる被膜の部分です。

前立腺がんの症状

特徴的なのは、初期の段階では自覚症状がほとんどないという点です。前立腺がんは前立腺の外側(辺縁領域)に発生しやすいため、尿道を圧迫せず排尿障害も出にくいですが、がんが進行すると辺縁領域から尿道の方へ大きくなり、前立腺肥大症と同じような症状が現れるようになります。また、骨やリンパ節へ転移することが多く、腰痛や背部痛などにより整形外科を受診した際にレントゲンを撮影し、骨転移の影が見つかるというケースもあります。

自覚症状による早期発見が期待できないため、50歳で一度PSA検査を受け、自身の基準値を知っておくことが大変重要です。

前立腺がんの進行度

限局

がんが前立腺の内部にとどまっており、周囲の組織や臓器に広がっていない状態。

領域

がんが前立腺の外に広がり、周囲の組織や精嚢、場合によっては骨盤内のリンパ節にまで達している状態。

遠隔

がんが前立腺を超えて、離れた臓器(肺、肝臓など)や骨などに転移している状態。

前立腺肥大症との違い

前立腺がんと比較される疾患に前立腺肥大症がありますが、両者は別の病気です。

前立腺肥大症は尿道近くの移行領域(内腺)が肥大することで排尿障害(残尿感や頻尿、排尿困難など)が出現する一方、前立腺がんは外側の辺縁領域(外腺)に発生することが多いため、早期ではほとんど自覚症状はありません。

肥大症ががんに進行することはありませんが、両者は同時に存在することもあるため、注意が必要です。


前立腺がんの原因

※食生活や性生活、その他の因子については相矛盾する報告もみられる
前立腺がんの原因は、高齢化や食生活の欧米化(脂肪の多い食事、緑黄色野菜の不足など)、性生活(早婚、若年期における頻回の性交、性活動停止年齢が早いなど)に加え、検査技術の向上などが考えられていますが、はっきりとした原因はいまだ解明されていません。
年齢階級別罹患率 前立腺(2021年)
出典: 厚生労働省「全国がん登録 罹患数・率 報告 2021
また、前立腺がんは加齢に伴い急激に発症率が高まります。若年層の罹患率が極めて低く、40代後半、主には50代以降から年齢を重ねるごとに患者数が増加します。50歳になったら定期的にPSA検査を受けることが重要です。

検査方法について

スクリーニング検査

  • 一次スクリーニング PSA検査
  • 二次スクリーニング 直腸内触診 画像検査(超音波検査・MRI検査)

確定診断

  • 前立腺針生検

病期診断

  • 画像検査(CT検査・MRI検査) 骨シンチグラフィー
前立腺がんを発見するための検査・診断の流れとしては、大きくスクリーニング検査確定診断病期診断というステップがあります。

スクリーニング検査

スクリーニング検査には、PSA検査と呼ばれる血液検査、経直腸的超音波(エコー)検査、MRIによる画像診断などがあります。

なかでも市民検診や企業検診、人間ドックなどでおこなわれる一般的な検査がPSA検査です。前立腺がんの重要な危険因子が年齢であるという点から、50歳を過ぎたらPSA検査をすることが推奨されています。PSAは前立腺の特異なたんぱく質の一種で、少量ずつ血液に流れ出ますが、PSA値が増えるほど前立腺がんの疑いが高まります。

ただ、PSA値は前立腺肥大症や前立腺炎などでも上昇し、値が高い方がすべてがんというわけではありません。その場合、超音波検査で前立腺の大きさや形、MRI検査で前立腺がんの有無や場所を調べます。

確定診断

経直腸的前立腺針生検

経会陰的前立腺針生検

スクリーニング検査でがんの疑いがみられた場合、前立腺針生検によって確定診断をおこないます。これは針を前立腺に刺して10ヶ所以上の組織を採取し、顕微鏡でがん細胞の有無や悪性度などを調べる検査です。肛門から針を刺す経直腸式、肛門と陰嚢の間から針を刺す経会陰式があり、痛みは少なく、約10分前後で検査できます。ここでがんの存在が確認されて初めて前立腺がんと診断されます。

病期診断

CT

診断後にがんの進行や転移を調べるのが病期診断です。がんの転移や進行度を調べ、I期からIV期・ステージAからステージDなどに分類します。これは治療法を選択する際の重要な情報源となります。

CTMRIなどによる画像診断のほか、全身の骨を1枚のレントゲンに映し出し、骨への転移を調べる骨シンチグラフィーという検査も有効です。

治療について

分類 範囲 治療方法
限局 前立腺内にとどまる 手術療法放射線療法、PSA監視療法
領域 前立腺外に浸潤、リンパ節転移あり 手術療法/放射線療法ホルモン療法
遠隔 骨・臓器など離れた部位に転移 ホルモン療法、化学療法、緩和ケア
前立腺がんの治療には、経過を見るPSA監視療法、完治が目的の手術療法放射線療法、進行抑制が目的のホルモン療法(内分泌療法)と化学療法があります。

I期・II期の中で悪性度が低い限局性がんの場合は、基本的にPSA監視療法が中心です。PSA検査を3~6ヶ月に一度おこない、値が上昇しない間は無治療で経過観察をします。ただし、経過観察中はがんを悪化させないよう、男性ホルモンの分泌を促すような行為は避けていただくことが望まれます。

がんが前立腺の中に留まっている場合は、完治を目指す手術療法放射線療法などが選択できます。また、手術や放射線照射を希望しない場合には、がんの進行を抑える治療をすることもできます。

一方、リンパ節などへの転移など、がんが前立腺の外まで拡がっている場合は、完治を目指すことが困難となり、内分泌療法(ホルモン療法)や化学療法でがんの進行を抑える治療をおこないます。

手術療法

ロボット支援下手術

手術療法は前立腺がんの治療法として一般的ですが、他の多くのがんと違って部分切除という選択肢はなく、すべて全摘除術になります。現在広くおこなわれている手術は、開腹手術、腹腔鏡下手術、ロボット支援下手術の3種類です。
開腹手術

視野が広く、悪性部位を取り除くことも容易ですが、切開する範囲が大きく出血や術後の痛みがあります。

腹腔鏡下手術

画像を通して広い視野が得られ、傷が小さく出血も少ない、身体に優しい低侵襲治療法です。お腹を大きく切らず、小さな穴から器具を入れておこなうため、術後の回復が早いのが特徴です。翌日には歩行や食事が可能となり、術後10日程度で退院できるため、早く社会復帰ができるなど多くの利点があります。ただ、熟練した術者でなければできません。

ロボット支援下手術

腹腔鏡に鉗子を取り付けたロボット・アームを挿入し、操作ボックスに入った医師が操作します。内視鏡画面は三次元で、従来の腹腔鏡画面(二次元)よりもリアルに患部を観察できますが、術者が触った感覚がないのが欠点です。

腹腔鏡下手術(ロボット支援下手術を含む)では、術後の回復が比較的早く、翌日から食事や歩行が可能となり、約1週間で排尿カテーテルが外れ、10日ほどで退院できるのが一般的です。一方、開腹手術でも大きな流れは変わりませんが、腹部を大きく切開するため体への負担が大きく、入院期間はやや長くなる傾向があります。

また、術後の後遺症として尿失禁や性機能障害が出る場合がありますが、尿失禁は半年ほど、性機能障害は(神経を温存した場合)3ヶ月~半年ほどで回復することが多いです。
前立腺がんに対するロボット支援前立腺全摘術の創部

ダビンチXi

ダビンチSP

手術について

がんの進行具合によって、前立腺の横にある神経血管束を切らなければならないことがあり、男性機能への影響を避けられない場合もあります。特に、神経を温存ができるかどうかは発見の“早さ”にかかっており、見つかった時期が機能温存の可能性を大きく左右します。

また、術後に尿失禁が起こるケースもあります。これは前立腺を切除することにより、膀胱と尿道の解剖学的な構造が女性に近くなることが原因で、せき・くしゃみ等の動作により尿漏れが生じることがあります。

放射線療法

外部放射線療法 粒子線 陽子・重粒子、シンクロトロン
中性子線、原子炉・加速器
電子線、リニアック
光子線 X線、リニアック
γ線、密封小線源
内部放射線療法 β線、γ線 γ線、密封小線源
β線、非密封線源
放射線療法には、体外から照射する外部放射線療法(外照射療法)、前立腺内に放射線源を挿入して内部から照射する内部放射線療法(組織内照射療法)があります。

外部放射線療法のなかでも、一般的な方法として強度変調放射線治療(IMRT; Intensity Modulated Radiation Therapy)や定位放射線治療(SRT; Stereotactic Radiation Therapy)、限られた施設で治療が可能な粒子線治療(陽子線治療、重粒子線治療)などがあります。
代表的な外部放射線療法
強度変調放射線治療

コンピュータで照射方向や線量分布を精密に計算し、がんの形に合わせて放射線をあてることができます。これにより、直腸や膀胱といった周囲の正常な組織への影響を抑えることが可能です。照射は1回あたり10分程度を30~37回ほど、1ヶ月半~2ヶ月にわたり外来通院で継続するのが一般的です。

定位放射線治療

コンピュータで腫瘍の位置を三次元的に把握し、多方向から放射線を集中させて照射する方法です。周囲の正常な組織をできるだけ守りつつ、がんそのものに強い線量を与えることが可能です。通常は1回あたり15〜30分程度を5回前後おこなう短期間の治療で、外来通院で受けられることが一般的です。

陽子線治療

陽子の性質を利用することで、がん細胞に効率よく照射することが可能です。ただし、実施できる施設は少数にとどまります。照射は1回あたり15~30分程度を12回ほど、約3週間にわたり外来通院で継続するのが一般的です。
※当院では実施していません

内分泌療法(ホルモン療法)

内分泌療法(ホルモン療法)は、他の治療法と併用されるケースも多く、前立腺がんは発生から増殖、成長にいたるまで男性ホルモンに依存するため、薬の服用や注射によって男性ホルモンを抑えることでがんを餓死させていきます。ただし、のぼせやほてり、筋肉減少、骨粗しょう症などの副作用が出ることもあるため、医師と相談しながら治療をおこないます。

前立腺がんの生存率と早期発見の重要性

臨床進行度別 5年相対生存率(前立腺 男性 年診断例)
出典: 全国がん罹患モニタリング集計 2009-2011年生存率報告(国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センター, 2020) 独立行政法人国立がん研究センターがん研究開発費「地域がん登録精度向上と活用に関する研究」平成22年度報告書
前立腺がんは罹患数が多い一方で、死亡率は他部位のがんに比べて低いという統計が出ています。がんと診断された後の5年生存率を比較すると、治りにくいとされるすい臓がんが8.5%※4であるのに対し、前立腺がんは99.1%※4と高い数値を示しています。また、10年生存率も84%※5と報告されています。つまり、多くの方が罹患する可能性があるものの、早期に発見すれば非常に治癒しやすく、命を落とすリスクが低いがんといえるでしょう。

しかし、転移が進んだ場合には治療が難しくなり、5年生存率は53.4%※4まで低下します。そのため、症状が出る前に見つけることが何よりも重要です。

前立腺がんを予防するには

前立腺がんを予防するために
  • 質・量ともに良い睡眠
  • 揚げ物を控える
  • 大豆製品の摂取
  • トマト(リコピン)の摂取
  • たばこを吸わない
  • ストレスを溜めない生活
  • 飲酒はほどほどに
  • 適度な運動
  • 排尿時の違和感を見逃さない
  • 定期的なPSA検査の受診
前立腺がんの予防策としては、質・量ともに良い睡眠をとる、揚げ物をできるだけ食べない、禁煙、ストレスをためない、お酒は適量を心がける、適度な運動など、健康的な生活を送ることが大前提。その他に前立腺がんの特性に応じた対策として、大豆製品(イソフラボン)やトマト(リコピン)を積極的に摂取する、排尿時の違和感を見逃さないようにするという点にも留意が必要です。

さらに自覚症状がない前立腺がんにとって重要なことは、定期的にPSA検査を受けることです。早期発見をすることで治療の選択肢が広がり、治癒できる確率が格段に高まります。前立腺がんは加齢に伴い急激に発症率が高まるため、50歳を過ぎたら定期的にPSA検査を受診しましょう。

まとめ

前立腺がんは静かに進行し、症状が出にくい病気です。ですが、定期的なPSA検査によって早期発見が可能であり、見つかれば治療の選択肢も多く、予後も良好です。50歳を過ぎたら1年に一度は検査を受けることが、未来の安心につながります。

出典
※1) 厚生労働省「全国がん登録 罹患数・率 報告 2021
※2) 厚生労働省「2023年人口動態統計(確定数)
※3) 前立腺検診協議会・財団法人前立腺研究財団「前立腺検診の手引き」(金原出版) 54-70, 1993
※4) 全国がん罹患モニタリング集計 2009-2011年生存率報告(国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センター, 2020) 独立行政法人国立がん研究センターがん研究開発費「地域がん登録精度向上と活用に関する研究」平成22年度報告書
※5) 国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策研究所がん登録センター「院内がん登録2012年10年生存率集計

コラム監修

一宮西病院
泌尿器科部長
永田 大介

1996年、名古屋市立大学卒業。名古屋市立大学病院、豊川市民病院、名古屋市立東部医療センター、江南厚生病院を経て、2018年より一宮西病院。

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※本ページに掲載されている情報は、2025年9月時点のものです。

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